2011年7.月27 日水曜日 ブログ銀窯日記に投稿のものをかなり編集しました。(2021/10/14)
ミュロン作 円盤投げ ローマンコピー 原作紀元前450年頃 高さ155cm 大理石 ローマ国立博物館
同頭部
いや驚いた。
ギリシア彫刻というと、こういう白い大理石の楚々としたイメージだと思う。
でも、このミュロンの名作・「円盤投げ」は、ローマ時代のコピーであることは知っていたが、原作はなんと大理石ではなくブロンズだったらしい。
実は、フィディアスやプラクシテレスなどギリシアの最盛期(古典期)の巨匠の作品はどうやら、ブロンズのものが多かったということらしいのだ。
それが、偶像崇拝を嫌ったか、異教の偶像ということか、キリスト教、イスラム教の時代に青銅は貴金属ということでほとんど鋳つぶされて無くなってしまった。
それで、大理石のものばかりが残った。
つまり、残っているのは大理石中心だったアルカイックのオリジナル大理石か古典期に主流になったブロンズの名作の大理石ローマンコピーが大多数と言うこと。
大理石も、壊されたし、セメントの材料となったりしたがブロンズほど完全には無くならなかったらしい。
だから、残っている数少ないギリシア古典期ブロンズオリジナルは近代になって難破船から上がったものがほとんど。
つい最近、図書館で、小学館の世界美術大全集5 「古代地中海とローマ」の最後尾に掲載されている関隆志著 「ローマン・コピーの作り方」という論文を読んで、それをしって目から鱗であった。
論文によると人類史上初めての古美術品コレクターはローマ市民だそうだ。
アンティキュテラの青年 紀元前350年~325年頃 ギリシア、アンティキュテラ島沖出土 ブロンズ 高さ194cmアテネ国立考古博物館
こういうのが当時は、いっぱいあって、ギリシアというと大理石の楚々として清澄なイメージだが、実際ははかなりギラッとしたものだったようだ。
これも海中から出たもの。
そして、これ見を見て、気づくのは、この作品は全裸のお兄さんそれだけということ。
それが大理石のコピーは、こんな細い足首だと直ぐ折れるので、補強としてなにげに木の切り株とかが足にくっつけて彫られている。。これが、結構鬱陶しい。往々にして目障りである。
ブロンズは中空に出来て軽量だし粘りもあるから、それが無くて済む。
足首などには中に鉄心が入っているのかもしれない。
スッキリして実に良い。素晴らしい作品。
上の円盤投げの左足にも気の切り株のような物が付いている。名作にはたくさんコピーがあるが、オリジナルにない支えはコピー作者が適当に作っているので各々全く違う。円盤投げにはブロンズのコピーも残っているが、支えはついてない。
それで、その作り方だが、フリーハンドのもあるらしいが、石膏で原作を型どりしたモノから星取と言う技法で大理石に写したのがExakte Kopietと呼ばれ貴重とされるらしい。
円盤投げの写真をよく見ると髪の毛の所に小さな角みたいな出っ張りが二つある。
それが、星取機と今は呼ばれる立体測量機をセッティングしたあとらしい。普通は出来上がると削り取るのだが、それをずぼらで取り忘れたらしい。
これが、私の持っている現代の星取機。 ギリシアのは不明だが、理屈は同じはずだ。
説明は困難だが、上の写真の横方向に出ている枝様のを、下の棒に付けてこの尖った部分3点で、大理石と原型交互に引っかけて測量する。
要するに、枝は腕みたいに関節があって自由に動くのだが、石膏型に点、点を打って、そこに枝の針先を当てて関節が動かないように大理石の方に付け替えて当てて、大理石に針先の位置まで彫り進むと同じ形になると言うこと。針は彫ったり、星取機の付替えの際に邪魔になるので前後にスライドするが、元の位置を記憶するようになっている。
上の方は、ごく軽い小さな作品用で作品と原型を移動して作業するが、全身像のような大きなものは作品も原型も動かすのが困難だから下のものに取り付けて星取機の方を動かす。
分かりづらいと思うが、石膏原型と大理石の作品を同じ形に作るための器具である。
星取機
ベルテル・トルヴァルセンによる「星取法」の実例 コペンハーゲン、トルヴァルセン美術館
こんな感じで作業する。
アントニオ・カノーヴァ ナポレオン像頭部 1802年 石膏 イタリア、ポッサーニョ、カノーヴァ石膏美術館
点、点(星)を打った原型。この星はかなり少ない、かなり上手い職人だ。私は父実の石膏原型を木に写す作業をしていたがこの3倍は打っていた。少ない星だと自分の目をたよりに写す部分が大きくなるわけだ。
アリストゲイトン像石膏型断片 原作紀元前477/476年 イタリア、バイア出土 高さ21.6cm
これが、模刻工房の遺跡から出土した石膏型断片。ギリシアのオリジナルブロンズから直接型どりしたと推定されている。
素晴らしい!!
まぶたが異常に出ているのは、ブロンズは細いものが作れるからまつげが作ってあったらしいのだが、外型が抜けるようにブロンズに蝋か粘土を盛ったらしい。
ピレウスのアルテミス1 紀元前4世紀中頃 ブロンズ 高さ194cm ギリシア、ピレウス出土
これは近年発掘された、古典期後期のオリジナルブロンズ。
衣服、玉眼、肉の感じが生々しい。
所謂、古典期ギリシアのイメージではない。
どこか、18,19世紀に山ほど作られた擬古典主義の彫刻みたいなインチキ臭い匂いもある。案外、擬古典は的をえているところもあるんだと今回初めて思った。
まあ、往々にして、侘びさびの入り込む余地のないほどに保存がよいオリジナルとはこういうところがある。(或いは補修が過ぎているのかもしれないが。)
とは言え、仏像での金ぴか、ギラギラは予想がついて慣れているが、人類の至宝、若々しく晴れやかなるギリシア最盛期なので、ちょっと驚いた。
反面、癒し的に快いばかりでなく、神経をザラッと逆なでする感覚があってこそ本物という立場の美術家としては内心少し嬉しくもある。
ラボルト
パルテノン神殿西破風彫刻 ラボルトの首 紀元前438~433年頃 アテネ、アクロポリス出土 大理石 高さ41cm
ラボルト。パルテノンの破風についていた彫刻の断片。
これは、ギリシア人の作った数少ない古典期オリジナルの大理石の一つ。これは本当に素晴らしい。えも言えぬ神秘的な力。
古代彫刻の魑魅魍魎的な底知れない部分をほのかに残しつつも、現代人が直接共感できる、ユーモア、叙情性もある。それに美人。
多くの人が抱くであろうギリシア彫刻最盛期のイメージだ。
美大受験の時にこの石膏型をデッサンしたがその頃から、なんだか大好きだった。勿論、形のなまった市販の石膏像だったがそれでもなにか伝わってくるものは十分あった。
鼻、口と顎に修復があるとのこと。
(写真は一部を除き小学館世界美術大全集 4,5巻より)
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